バックライト電源用高圧トランスの試験 この方法は以前からコピー用高圧トランスの試験でほぼ完成していましたが、 最近のバックライト電源の生産量の急増で多種類のトランスを試験する機会 に恵まれ、手法に更に磨きがかかりました。特にコロナのチェックでは インパルス方式の機種の中では最高の検出能力を持つと自負しています。 この種のトランスでは定格出力電圧の2〜3倍のところにコロナ発生点 があり、実用試験電圧はコロナ発生点の0.7〜0.8倍が適しています。 自己共振周波数付近でこの共振電圧を発生させようとしますと、コアの 飽和が発生し必要な電圧が得られません。この飽和現象は電圧波形の 振幅を一定にする作用となり、見かけ上の減衰比を低くしますので レアーショート等のQの低下が検出できなくなります。 コロナの検出においてもこのままでは検出能力は低くなります。 以下、ステップ1〜ステップ5の実験でこの問題を解決します。 |
解決策としては @補助コイルにより共振周波数を上げることにより試験コイルに流れる 電流を下げ、充分な試験電圧においてもコアを飽和させないようにする。 A電流変換器により試験コイルの電流波形を取り込み、コロナの検出能力 を改善する。 B @,A,の実験結果を1台の治具に組み込み安定した試験環境を 実現します。以後この種類のコイルは治具に接続するのみで単純化した 作業で確実な試験が実現します。 |
ステップ1 まず、試験トランスの2次側を印加出力へ直接接続してみます。 試験トランスの2次側定格電圧は1.2kV0-pですので1.2×1.8=2.2kV を印加してみます。波形は右図のようになります。 明らかにコアが飽和しています。この波形ですとコアの飽和特性が 波形の減衰比を左右しますので純粋なコイルのQ特性は測定できません。 |
ステップ2 試験コイルのインダクタンスの1/5〜1/10のインダクタンスの補助 コイルを接続すると実効共振周波数が上がってコアの飽和が低減 されます。試験コイルより小さいインダクタンスが並列接続されるわけ ですから試験コイルの不良による波形への影響が少なくなります。 不良検出能力を落とす結果になります。 そこで電流変換器を用いて試験コイルの電流波形を取り込み、 これを分析します。右図の上が電圧波形、下が電流波形です。 電流波形ではQの微小な変化もコロナの発生も好感度で検出します。 |
ステップ3 ステップ2の印加電圧=0.8kV、共振電圧=3.1kV、印加電圧を0.05kV 増加させた点でコロナが発生、電圧波形では共振=3.1kVに対して0.08kV、 電流波形では共振電流0.15Aに対して0.05Aとなりました。共振波の値と 比較して電流波形法ではほぼ1桁大きく検出しています。 本機コイルテスタでは最小検出コロナ電流は約0.003Aですから余裕の 検出感度です。 |
ステップ5 完成形 以上の実験結果をふまえた対応策を組み込んだ治具が右図のように完成 します。この方法で試験電流のためにコアが飽和する問題を解決し ましたが、他の種類のトランスやコイル類でコアが飽和する場合にも 応用できます。 また、工場で巻線直後の空芯状態で試験される場合はコアの飽和など の配慮は必要ありませんので、コイルテスタ本体に直接接続するか 電流変換器を併用するなど多彩な応用が可能です。 上記ステップ1〜ステップ5に出てきます波形は別途オッシロスコープを 接続して観測した波形です。常時の測定には波形表示は必要ありません。 |
ステップ4 レアーショートの検出能力について検証します。正常なトランスの2次コイル の外側に別の電線で1ターンのショートコイルを巻きます。これでレアー ショートの模擬をしたことになります。その結果右の波形になります。 ステップ2の波形と比べて目で見ても解るほどQが低下しています。 ステップ2の電流波形の波高率測定値=8%に対し右図の波高率は19% に上昇しています。正常品の波高率のバラツキを集計した上で試験の 上限値を定めて設定すればレアーショートに対する自動判定が定まります。 波高率はJISで定義している損失係数Dを%表示をしています。 波高率=19%とはD=0.19の意味です。 |